バンコクとタイ家族のこととくだらない話と

タイ在住歴20年のライター・高田胤臣の個人的なブログ

この時期になると

 この時期になると思い出すのが亡くなった友人のこと。ちょうど数日前が命日で。
 彼とは小学2年生のころから顔見知りとなり、3年生からは同じクラスでそれからずっと仲間だった。ケンカもしたし仲間割れじゃないけど会わなくなったことも何回かあったけど、ビバリーヒルズ高校白書バリに乗り越えてきた。
 親友同士だ、と本当に思ってた。
 18のころに俺が家出したときも、まっすぐに向かったのは彼のとこだったし。彼は「ここで暮らせばいいよ」なんて、喜んでくれていたくらいで嬉しかった。ちなみにそのとき彼の部屋にあった「リビングゲーム」というマンガは、今でも思い出の一冊。内容は自分の居場所探しと部屋探しをリンクさせた話で、家出中の身としてはなかなか入りこめるストーリーでさ。
 家出の少し前に車の免許を取って、真っ先に乗せたのが彼だった。当時付き合ってた女の子じゃなくてさ。キャンプにも行ったっけ。
 なんか知らんが彼が黒人の家庭教師を雇って英語を習いはじめたころ、その先生を呼んでみんなと彼の部屋で酒を飲んで。足りなくなって彼と俺で近くのセブンに買い物に行って、みんなをほったらかして近くのバス停のベンチに座り込んで、スンゲェ語り合ってた。
 泥酔して年越し直後のカラオケ屋で俺がチ○コだして写真を撮ってたり、彼と他の仲間と俺を騙そうとビデオカメラを設置してて、でもみんなバカだから速攻で俺が見破って。
 中1の理科の授業のときに、月の話でさ。俺が彼のうしろから、知ってるか? 月の直径は月経って言うんだぜ、なんて言ったら、彼もわかっててスンゲェでかい声で、先生、月の直径って月経って言うんですかぁ、なんて言って。なぜか俺がクラスの女子にこっぴどく怒られた。彼の計算なんだよ。僕なんにもわかりましぇん、みたいな顔してるんだけどさ、俺を見る目が笑ってるんよ。あんときはやられたな。
 思い出とかバカ話は本当に尽きない。
 で、なんかいつの間にか、何かが変わってきた。
 正確に言うと彼と俺らとの間が変わりはじめた。
 多分彼はエネルギーがあり余っていたんじゃないかしら。それから彼はいろいろなモノへ興味を持ちはじめたんじゃないかしら。例えばそれが精神世界へいざなう何かであったり。
 俺が今こうして死体に興味があるのも彼がそういった類に強い興味を持ちはじめたのも、そもそもの原点はきっと同じところにあるのではないかと思う。
 スタンドバイミー。
 小学生のころ映画を見て、6年生のときに小説を読んだ。死体ってどんなんだろう。そこが俺の死体フリークの原点。
 今思い出してみると、彼の部屋にもセル版のスタンドバイミーのビデオがあったもの。気に入ってんじゃないかな。
 どこから手に入れてきたのか、よくデスファイル*1とかも見てた。
 それから死体とか、生きるということに対して究極の存在に興味が、俺も彼もいってしまった。俺はそのまま死体ばかりで、彼は精神世界へ。
 いつしか彼は暴走していて、俺らは彼から離れてしまった。どうしてああなってたのか、正直今でも俺はわからない。周りの影響? でも俺らはどちらかというと健全な方だったし。他の影響かねぇ。
 そしてよくいう「青春」ってやつが終わったんだと思う。彼から離れて、酒飲んで道端を走り回ったり、大声で歌ったり、バカ丸出しの奇行をしなくなったし*2
 何年か経って、何回か連絡があって会ったけど、結局、今度は俺が子供だったんだろうなと思う。
 それで最後になっちゃった。
 あのころ、彼は何を考えていたんだろう。
 いつか彼は俺に言ったことがあった。
「最高に楽しいってときだったら死んでもいい。つらいときは死にたくない。だってこのあとにどんな楽しいことが待ってるかわからないから。とにかく今はまだ死ねない」
 彼も何かが変わったんだと思う。自分のそんな言葉も忘れてたんだと思う。
 俺の十代のころって、今考えてみるとすごく歪んでたと思う。気性は激しかったし、考えこむタイプだったし。自分で言うのもなんだが、今とは全然違う性格だった。いつも死にたいって思ってた。でも死ねるほど度胸もなかった。
 彼が死んでしまったとき、先を越されたと、正直思った。やってくれるぜ、と正直思った。さすがだな、と正直思った。負けたと思った。
 今はもう死にたいとか思わない。
 彼が先に逝ってしまったから? 俺が変わったから?
 何もかもが正解だと思う。
 誰も彼も、何でもかんでも、今この瞬間は全て過去の蓄積にあるでしょう? 家康が天下を取っていなかったら。ピカソが絵に使った色が一色足りなかったら。バスを1本乗り遅れていたら。全てが変わってたでしょうに。今までの全ては今のこの瞬間の全てを作り上げる必要なプロセスで。
 それに、俺がいなくたって明日は来る。
 だって彼がいないのに、こうして毎日が来ているのだから。
 俺だってそう、今は死ねない。どうせいつか必ず死ぬんだから、だったら今はまだ死ねない。
 サトケンにしたってキムにしたってトネにしたってカナマルにしたってジュンヤにしたってタクゾーにしたって、そして俺にしたって、彼の死が何かを与えているのかもしれないしそうでないのかもしれないし。
 ただ俺はこの時期になると、もしも彼が生きていたらどうなっていたのだろうかって考えてみたりする。ひとつだけ言えることは、もしも彼が生きていたら、彼が死んだことについて考えなかったってこと。
 ただ俺はこの時期になると、こう考えてしまう。どうしてもっと話を聞いてやれなかったんだろうって。

*1:エロビデオの会社(名前忘れた)が主にタイのレスキューチームから持ってきた映像に暗いBGMをつけてた死体のビデオ

*2:それが青春なのかどうかは知らんけど