バンコクとタイ家族のこととくだらない話と

タイ在住歴20年のライター・高田胤臣の個人的なブログ

ワット・バーンプラ

29ヨートの図柄

 昨日の明け方レスキューから帰宅して、3時間寝ただけで待ち合わせの時間。
 車で、プラチャーソンクロ通りの友人宅そばまで行く。場所がわからないので、電話をかけてみるも、つながらない。おいおい、まじかよ。無線も持ってたのでひょっとしたらと名前を呼んでみるが、応答なし。しばらく待って、ためしにかけてみたらつながった。よかった。
 早速出発。
 場所は水上マーケットのダムヌンサドゥアックに近い、ナコンパトム県にある寺。ワット・バーンプラという寺。
 到着してすぐにお参りセットを買う。ろうそくと線香と花と金箔。これを坊さんに渡して、お経を唱えながら金箔をおでこに貼ってもらう。20バーツなんだけど50バーツ札しかなくてそれを出す。おつりはなし。
 そして刺青の前に食事。というか、この時点で刺青を入れるような雰囲気になっていたが、腹は逃げるつもりもあった。噂で不衛生であると聞いていたので、最悪やらないつもり。様子を見てからにしようと。
 この寺は川べりにあって、朝からやっている食堂はさびだらけのあやしい台船の上にある。
 ここで余計なものを見てしまった。
 魚へのえさやりコーナー。
 もう食事なんかさささと済ませ、ちょっと散歩してくるわ〜、的なことを言いつつ一直線にえさ売場へ。1袋10バーツと激安なのでまずは6袋購入。俺みたいなえさやりマニアになるとちびちびあげないのよ。一気に1袋をぶちまける。するとなまずのどでかいのががばがば浮かんできてさ、スンゴイの。いつかあそこに飛び込みたいね。食事を終えた連中も合流してえさをあげはじめたのでさらに2袋購入。今度は必殺の2袋同時投げ。・・・・・・別に1袋の時とかわんないね。
 さて、目的の刺青の小屋へ。
 図柄はいろいろと指定できる様子。虎の絵や亀、鳥や仏像の絵、お経などいろいろ。受付にいた小僧さんの背中にはアンジェリーナ・ジョリーと同じ5本の線のやつの赤インクバージョン。かっこよかった。あれにしようかと思ったけど、とりあえず基本というわけではないけど、基本的な型の「29ヨート」にしなよと友人に言われ、まあそれでいいや、と。どんなんだったか憶えてないけど、まあいいか。
 坊さんにまたお参りセット。花と線香とろうそくとたばこ。
 して、部屋の2階へ。
 すでに10人くらいの人が並んで待っている。彫り師は意外にも坊さんではなく普通の人。どうやら坊さんに許可を得た人がやっていて、終わったら坊さんがそれにお経で仕上げてくれるらしく。
 彫り師は途中から来たのも含めて全部で4人だった。席がまだあったから、全部で6人入る様子。しゃべると声が高く歯並びが悪いのだが、彫っている姿はきりりとしていて男前のおっちゃん。デビッド陶に似ているが、髪型がわかめちゃんの兄ちゃん。髪が長く、ぼろぼろの安物のジャケットを着た、場末のホストクラブにいそうな若者。髪が長く、気持ち悪いトゥクトゥクの運ちゃんみたいなの。ホストはよくわからんし、トゥクトゥクは偉そうな態度でしかも彫り師の命である針が壊れてて使えないというとんでもないアクシデントがあるし、どうなってるんだと。友人はこのトゥクトゥクにやってもらったようだが、俺はこいつは嫌だわ、と。わかめちゃんと男前は人気だが、これは男前にやってもらおうと、その列に並ぶ。
 待っている間部屋を観察。仏壇の上には虎に乗った坊さんの絵。ここはひょっとしたら、テレビなどでこの寺の集まりにやってきたここで刺青をやった人たちが一斉にトランス状態になって虎とか自分が彫った動物になっちゃうってことで、有名なところかもしれない。
 そんな中、俺はとんでもないものをみつけてしまう。
 仏壇の下にずらり並んだ小さな仏像の中に1体、虎の衣をまとったやせ細ったおっさんの仏像がある。しかも、顔は虎・・・・・・ってタイガーマスクや〜ん! なんじゃこりゃ。
 今度は刺青をされている連中を観察。みんな普通の顔してやってもらっている。痛くないのか? もしかしたら、手彫りなので、遅いから痛くないのかもしれない。針は手から肘くらいまであるような長い棒。ひとりが終わるとアルコールで消毒しているようだ。これなら、確かに清潔ではないが思ったよりはよさそうだ。しかしインクの器は使いまわしだし、終わった後にアルコールを塗るのはいいとして、インクを雑巾みたいな布でじゃっと洗い落とす。その雑巾が入っているバケツは朝からずっと使いまわし。ひどい・・・・・・。ちなみに寺ではない普通の刺青屋さんは針は毎回新しいものか消毒されたものを使うし、インクも器もひとりひとりちゃんと新しいものを使ってくれる。
 そうして約3時間ほど待ってやっと俺の番になる。
 アルコールで肌を洗い図柄を転写。図柄はすでに紙にボールペンで描かれていて、それを肌に写してやるのは普通の刺青屋も一緒。
 そしていよいよ始まる。
 って、痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
 手彫りは機械に比べて深く入るから痛いんだった。くっそ〜、超痛い。逃げていいなら今すぐ逃げたい。
 1分もしないうちに血の気が引いてきて、マジで失神5秒前。痛いから体がびっくりしたのと、息をするの忘れてくらくら。それに、事故でも何でもこういう風に継続して痛みを受けるっていうのは普段の生活ではなかなかないからね。意識が朦朧としてくる。図柄もどんなんだか全然憶えてないし、いったいどうなるんだ俺は。途中から何やっているんだ、俺って思い出し、悲しくなってきたし、彫り師が憎らしくなってくる。首のあたりなんかもう、ぶつぶつぶつ、って皮が裂けて刺さってきているって音が聞こえるし。
 しばらくして慣れてきて余裕ができたころ、そういえば刺青するときって毎回こんな感じだったのを思い出した。
 さらに余裕が出てきて、周りを観察。したら余計なものが目に入ってきて。
 目の前のグループの男が、チェ・ゲバラのシャツを着てて、で、目の前に座って背中を見せている彼のシャツの首の下に「CHE」って書いてあるのを見つけてしまった。チェって! おかしくて目をそらしたら、その先にタイガーマスク。頭がおかしくなっているから、それだけで笑える。
 ちなみにチェの番になって、彼はあまりの痛さに逃げ出そうとして、一緒にいた友人らに取り押さえられていた。笑わせないで。
 そうしてやっと終わり。ちょうど1時間くらい。幸い、外国人だからかバケツの雑巾は使わず、ボトルの水で洗ってくれた。
 が。
 それだけでは終わらない。
 アルコールでさーっと拭いてくれるわけだが、傷口にアルコールを塗るのだからこれは痛い。とどめだよ、とどめ。
 そしてそのまま階下へ降り、金粉を貼ってくれたりお経を読んでもらったりして完了。最後はお布施をして終るのだがみんな20バーツだけ。俺はたまたま100バーツ札しかなかったので100バーツ。
 そして、最初に行った坊さんのところでお守りとかを借りて*1、お参りセットと共に読経してもらい終了。締めて230バーツ+お守り250バーツ。
 安い。
 読経が済んで見てみるとお参りの人がいっぱい。よく見てみると祭壇の上に坊さんのミイラが置いてあった。
 来てよかった。
 家に帰ると、アムの母が来ていた。そんなん知らないからクローゼットの向こう側からすっと出てきた義母を見て、砂かけばばあかと思った
 夜、ハマさんとYoshiさんと寅次郎で食事。ちょっとのつもりが閉店まできっちり。でも、カラオケとかじゃなくて話ができるから俺はこういう方が好きだ。焼酎も2本開けて結構金額がいったけど、もったいないと思わない、こういうのであれば。

*1:タイではお守りは買うのではなく有償で借りていると言う