バンコクとタイ家族のこととくだらない話と

タイ在住歴20年のライター・高田胤臣の個人的なブログ

今年一番の最悪の日

アユタヤの報徳堂

 今年一番の最悪の日がもう2月の頭に出てきた。
 もうなんか、全部が嫌になった。脱サラがなんとかって言っているわけだけど、なにがあってもこの会社は辞めようと思った。なにか大切なものを吸い取られていく気がする。ちょうど朝にそんな話をしていたところだったし。歴代の業務日本人が連続で病気になって辞めていっているし、って。
 コラートに用事で走ってたら、ワンノイ*1の辺りでUターンのポイントがあった。バンコク郊外の国道は高速道路になっていて、中央分離帯を数キロごとに切ってUターンできるようになっている。
 で、追い越し車線を走っていたらバイクが1台、Uターンしようとしているが見えていた。けど、停まっているしこっちも見ているから出ないだろうと。したらすっと出てきた。
 まあ、隣の車線に移るよね。
 また出てきた。
 もうこの時点で止まれない速度と距離。
 もうひとつ車線が左にあるから(つまり3車線だった)避けようと思ったけど、トヨタのピックアップかなんかが猛烈に走ってきてて入れなかった。でも、バイクは追い越し車線上で停まっているようだし、と思ったら出てきた。
 なに考えている?
 で、跳ねた。
 初めてだよ、人轢いたの
 もちろんフルブレーキだし、避けながらなので、側面に向こうがぶつかってきた状態だけどさ。
 路肩に停めて見に行ったら、女の子が座ってた。落ちて尻を打ったようだ。でも、確認したら骨折はない。
 そんでまた幸運なのか不運なのか、アユタヤ近辺の今日の担当が報徳堂でさ。偶然、そこら辺の担当のボランティアの兄ちゃんがうしろを走ってて、すぐに赤色灯回して女の子をカバー。もうひとつ運がいいのか悪いのか、真後ろでの目撃者がバンコク近郊の報徳堂のボランティアのおっちゃん。3人して初対面なのに、兄ちゃんのカバーとおっちゃんのバイク処理と俺のけが人の確認なんていつもの現場みたい。
 女の子は動転してて、仕事に行かなくちゃ仕事に行かなくちゃ、って。いやいやいや。病院に行けよ、と。保険は? って訊いたら、ない、って。嫌な予感・・・・・・。
 で、女の子に電話貸してやっている間、おっちゃんが
「車にホワイクワンってあるけど、ナカオ(副隊長の名前)の下? それともナトイ(ボスの名前)?」
 って。
「あ・・・・・・、あの、ナ・・・・・・ナトイ、です・・・・・・」
 くっそ〜、知り合いかよ〜。
 で、報徳堂の兄ちゃんが、ホワイクワン010とバイクが事故で、って本部に無線を入れてるし!
 ちょっと〜!
 そこで、電話がかかってきた。
タナカ、どうしたんだ!
 ボスだよ〜。っていうか、無線聞いてないで仕事しろよ〜。
 ある意味悲惨だった。



 こっからが長くて、女の子は病院に行って、代わりにバイクの持ち主だという女の子の姉が登場。保険屋がなかなか来ない。バイクに保険がなくてもめるのを見越して兄ちゃんが警察を呼んでくれてたみたい。で、珍しく警察が先に来る。
 バイクはすでに路肩に移動してしまってたとはいえ、通報の内容、車の傷、現場の状況を見てもバイクが100%悪いのがわかる。なので、適当に写真撮って、バイクを持って帰っていく警察。ただし、保険屋と一緒に署までおいで、と。
 車を修理する間の交通費などを言っておいた方がいいなと思ったら、金がない、って。いや、それは俺には関係なくない? って。ピーの保険を使ってください、って。じゃ、俺の保険使ってもいいけど、その代わりに5000バーツくらい出してよ、と言ったら、ないの一点張り。で、あんまふざけんなよ、と。ここのやりとり、最後のところで効いてくるポイントね
 日本人だと思って丸め込めるとでも思っていたのか、予想外に口はきけるとわかってちょっと怖かったのか、親戚のおじさんを呼んできた。
 したら、タイの法律は大きい車の方がどんな理由であれ悪いんだと。いや、これは嘘ね。で、また俺がぶち切れて怒鳴り散らしたわけよ。で、おじさんも予想外に口げんかができると思って怖くなったみたいで、またひとり、親戚が現れた。どんどん増えてくるぞ、これは。出尽くしたら分裂しはじめるんじゃねえのか、こいつら
 1時間以上して保険屋登場で、軽く現場検証して警察署へ。
 でも、考えてみたら、タイ人はタイ人に甘いから、外人ひとりで田舎の警察に行ってもかなり不利なんじゃないかしら。
 ちょっと怯みつつ、警察署へ。
 当の女の子は大したけがはなく、ちょっと尻と背中が痛いくらい。実際、外傷はまったくなかったしね。病院から来たんだが、お母さんも一緒。また増えたよ
 そしてここからの約5分は、マジでちょっと怖かった。ものすごい勢いでお母さんやおじさんや親戚や姉が見てないのに現場の話をしはじめて、Uターンして、俺から見て左の方の路肩へ行ったところで俺が突っ込んできた、と。それを警察も保険屋もなるほどなるほどみたいに聞いているしさ。ホントどうしようかと。報徳堂のおっさんが運良く報徳堂のステッカーを付けていない車で来てたから、目撃者として話をしても大丈夫だろう、と言って電話番号をくれていた。この人に頼むしかないかな、と思ってたら、やっぱ、正義はあるんだよね、世の中は。
 ふんふんと聞いてた警官が、神の問いを出したね。
「じゃ、左の路肩の壁際を走ってたバイクを後ろから走ってきた車が、壁に車をぶつけずに車の右側でバイクの左をどう跳ねるか説明してみて」*2
 ほら〜。もうどっからどう見ても俺が悪くないんだよ〜。
 したらお母さんは、Uターンしようとしているバイクを止まって待たないのが悪いって。どっちが優先かって言ったら、車でしょ、と。
 で、いろいろ言っても聞かない一族。警官はタイの道交法、現場の状況、俺の車が止まっていた位置などから見てもまったく俺に非がないと説明してくれた。お母さんは最後、もし死んでたらターイ・フリー(直訳は無料で死亡)か! って怒り狂う。そこまでは言ってないし。でも、実際そうだよね。もし今日あの子をひき殺してても、俺はこの時間にもこうやってブログ書いてるだろうし。日本みたいに何対何とかあるにはあるけど、10対0も普通にあるからな。相手の具合がどうであれ。
 そこでお母さんが、あんたが払え、みたいなことを言ってきたから、いやいや、こうこうだから俺は悪くないし、むしろ車がなくてどうやって会社に行くんだよ、それをどう補償するの? って言ったらぎゃんぎゃん吠えはじめたので、うるさいな、おまえは関係ないんだから黙ってろ! って言ったら言い返してきたので、また怒鳴り散らしちゃった。警察もびっくりしてた。一般の人も見てた。そんで一族で怖くなっちゃったのか、やくざみたいな人を呼んできた。出ました、ラスボスです。たぶんこのボスでダメだったら分裂はじめるよ、きっと
 ちなみに当の女の子はずっと黙ってた。そりゃそうだ、自分が悪いの知っているから。最後に一度喋ったけどね。もう反論ができないとわかったのか、バイクの修理と治療費だけ保険から出してくれと。そこには保険屋がピシャリ。タイの警察もさすがに民事不介入だから、あとは当事者で話さないと、って。そこでやっと当事者が口を開いたのね。
「ピー、修理費だけでもなんとか払ってくれませんか」
 ワイ(合掌)しながら丁寧に、かつ弱々しく言って。なんかこっちが悪いみたいな感じになっちゃうよ〜。ごめんよ〜。だから言ったよ。
「ふざけんな! なんで俺が払わなきゃならないんだ、バカか?」
 ふざけんなよ、マジ。なんで俺が払わなければならないんだよ。っていうか、こいつらから俺も何も取れないな、きっと。
 そんで、警官がどうするか当事者で話し合えって言ってたのに、なぜか一族だけで話し始める。もう本当にバカなんだろうな。とりあえずその間、俺と保険屋は書類を作ってたけど。保険屋に念のため訊いたら、やっぱり車が大きい小さいは関係ないって。あと、この件は俺の車だけを直す書類で、一切バイクの修理はしないってさ。当たり前だが。あと、俺の住所をこのアホ共に見せないでよ、って保険屋に釘さしておいた。実際警官と現場で話しているときとか姉が俺の携帯の番号とかメモしてたし、車のナンバーとかも写真に撮っていたし。
 警察とやくざみたいなのが話をしたけど、当然進展はない。というよりも、警官が
「タイ人だったら話し合いってどうにかなるんだろうけど、日本人とかはどっちが正しいか悪いかで判断して、非がない場合は一切払わないし、もう諦めたら?」
 って。合っているような合っていないような・・・・・・。
 そこから今度もめはじめたのは、罰金を払う金がないって。よくわからないんだけど、何の罰金なんだろうか。渋滞させたりしたからかな。
 女の子が病院に行って、姉が来たとき、それからおじさんが来てふたりで話したとき、お母さんが来て話したとき、全員で共通して言ってたのは、その女の子は3歳の子どもがいて旦那に逃げられて、やっと2日前に仕事を見つけて働き始めたのに、今日仕事に向かう途中で事故に遭った、ということ。やくざが来てからずっと俺の前にいて、その間に子どもの話が出てこなかったけど、同じ事をやくざも言った。どうしても金がない。罰金を払う金がないと。もうこりゃホントに補償は取れんな、と思ってたら、おじさんとやくざがお願いしますって頭下げてきた。
 結局400バーツ払った。たったの400バーツもないんだって、本当に。救いようがないね。女の子の落ち込みようがもう凄まじかったからさ。鬼にはなりきれんかった。これ以外は絶対に払わんぞ、って。それから、バイクと車は必ずバイクの方が痛いんだよ、子どもがいるなら保険を含めてちゃんと生き方、運転の仕方を考えた方がいい、って言っておいた。この女の子には1%も伝わってないと思うけど。あんな母親じゃね。
 で、よく考えてみたらさ、誰ひとり俺にごめんなさいって言ってなくね?
 もう!
 で、オチね。
 さっさと帰ろうと思ってたし、連中も帰ろうとしてた後ろから保険屋が、全部済んだら修理代おたくに全額請求するから、ってさ! そりゃそうだ。ちなみに早速修理屋に持っていったら25000バーツだってさ。最初に5000俺に払ってれば俺の保険で全部どうにかなったのに。悪いけど、ホント、ザマァ! って言いたい。ついてない人生だと彼女は思っているかもしれないけど、はっきり言って今日の事故は自業自得だ。
 修理、2週間だって・・・・・・。計算したら2000バーツは交通費として飛びそうだ。ついてない。なんか、この車やめてフリード買いたい。あと、ホント会社辞めようって、警察署で一族に待たされているときに思った。

*1:サラブリーに向かうパホンヨーティン通りをアユタヤに折れるところを数キロ行った辺り

*2:俺の車の写真を見ると横に壁があるでしょ? バイクはすでにここに移動していて、この報徳堂の兄ちゃんがなんか知らんけどペイントしてた。たぶんこれがいけなかったんだと思うけど