タイのタトゥーシーンでも痛み止めが主流に?
タイの場合、タトゥー、あるいは刺青は「サックヤン」と呼ばれる護符刺青から文化が始まっていると見られるので、日本と違ってあまり社会的に嫌悪されることはない。日本は明治時代から昭和の終戦くらいまで刺青禁止令があり、それによってワルを見せるためのひとつの手段になってしまい、それが今も続く。これが社会的に嫌われる理由のひとつだ。
ただ、日本人の刺青擁護派はよく外国ではタトゥーはファッションのひとつとか、タトゥーは受け入れられていると言うが、なにを見てそう言っているのか、オレは疑ってしまう。
どんな国においても、刺青やタトゥーはアウトローな、悪い奴の象徴だ。たとえば、クローン人間で、なにからなにまでまったく同じ人物であったとしたとき、刺青のあるなしでレッテルを貼られることになる。やっぱり'刺青があった方が社会的には不利な立場になる。
社会的に嫌われていないタイにおいても、本当にまともな人は刺青なんか入れないよ。若い人もだいぶ減った印象だ。大学生なんか昔ほど入れない(ただ、これはトレンドがあって、いろいろ状況は変わるんだけれども)。
温泉とか刺青者の入場禁止とか批判されるけど、なにが悪いのか全然わからない。受け入れるか受け入れないかはその施設に決める権利がある。ダメと思うなら、禁止にすればいい。どうしてもそこに入りたいなら、刺青を消して入ればいい。ただそれだけだ。
タイ語学校へ通うのをやめ、一時期日本に滞在していたときにバイトをした。そこに駆け出しの彫り師がバイトしていた。その人が言っていたのは、
「温泉に入れなくなる、銭湯に行けなくなる、なにか制限されるかもしれない。ほんのちょっとでもそう思うなら絶対に刺青を入れてはいけない」
ということだった。逆に言えば、入れたんだから、禁止事項にとやかく言うのはやめようぜ。
もし刺青を入れて日本で生きづらいなら、海外に行けばいい。確かに日本よりはとやかく言われない。
そんなタイのタトゥー業界が徐々に変わりつつある。タイはサックヤンが文化的に長いけれど、欧米の本当のタトゥーは歴史が浅い。というのか、外国のタトゥートレンドの後追いだ。日本だと世界的に有名な彫り師がいるけれども、タイはほとんどいないと言っていい。
タトゥーの文化はアメリカとかが主流になるが、そのアメリカでは何年も前から施術前に麻酔を使うようになっている。大それたものではなくて、塗り薬タイプの麻酔薬で、幹部に塗ると30分くらいで表面が、要するに皮膚が痺れてくる感じになる。そこに図柄を施術する。
まあ、刺青は痛いしね。これまでは「我慢」の先にある達成感を見るまでが工程だったけれど、無駄に痛い思いをする必要がないと、至極当たり前の結論に到達し、そんな薬が当たり前になっている。そして、それが世界のトレンドになりつつあるようだ。
ほかの東南アジアの国々はよく知らないが、少なくともベトナムはそれに対して素早く反応して、麻酔を取り入れていた。タイは一向に入ってくる気配がなかったが、2018年くらいから徐々に見られるようになってきた。
あるとき、タトゥーを入れる人についていった。その人は事前に施術箇所に麻酔を塗ってきていた。そして、いざ施術開始だ。一発目の針が肌に落ちた。そのときだ。
「痛ッ!」
そんな叫び声が聞こえた。あとで日本の歯科医に聞いた話では、歯の治療で使っているものと同じものみたい。でも、やっぱり表面にしか効かないので、人によっては全然効果がないのだとか。
オレなんかはおじさんだからなあ。痛みの向こう側を刺青に求めちゃう。だから、個人的には麻酔はあまり好きではないんだ。