バンコクとタイ家族のこととくだらない話と

タイ在住歴20年のライター・高田胤臣の個人的なブログ

泣いてる?

 この前、真っ暗な部屋で電子書籍を読んでいたら、アムが歩いてきて、オレの前で立ち止まって覗き込んできた。で、「泣いてるの?」って訊いてきた。泣いてないし。あくびをして、涙が出て、鼻も出て、それで啜っていただけだ。泣くにしてもなんの要因もないし。

 でも、それでふと思い出したことがある。

 かつて伊勢丹の前の広場はビアガーデンがタイで一番大きい場所として有名だった。今も乾期に入ると始まる。だいたい11月から年末年始のカウントダウンと共に終了する。

 でも、2006年までは11月くらいのスタートは同じだけど、終わりがたしか2月末とか。結構長くやっていた。当時はシンハ、ハイネケン、チャーン、カールスバーグが大きくやっていた。アサヒも途中から参戦していた。

 それぞれに特徴があった。特にチアビアと呼ばれるキャンギャルにその傾向が現れていた。チアビアはそういった女の子を派遣する専門の事務所があって、そこから呼ばれるからか、傾向が出ていたのかも。

 シンハはタイ人って感じの女の子、ハイネケンは色白のバンコクのゴージャス系、チャーンはあまり行かなかったから憶えていないけど、確かタイ人っぽい子なんだけど、シンハよりは色白の感じだったかな。

 当時、チャーンビールがカールスバーグを造っていたので、このブースも大きかった。毎年伊勢丹の前で。ここの女の子たちは女子大生って感じの子たちだった。オレと同じアパートの友人はほぼ毎日開催中は足を運び、飲みまくってたわ。これなんかは、ホント女の子に声をかける目的で。2002年か2003年の話だけども。

 あのころのチアビアはつんけんしてなくて、気さくな子が多かった。特にカールスバーグは大学生ばかりだし。それで、ゲームちゃんというね、ちょっと色黒だけどもかわいい子と仲よくなって。ほかにも彼女の友だちも何人か来たんだけど、その子とロッブリーのひまわり畑を観に行った。日帰りだし、当時の大学生は初デートにひとりで来ることなんてなかったので、彼女の友だちもいたというわけ。

 ところが、当時全然金がなくて、奢ったりとかできないもんだから、嫌われたのかな。そのひまわり以降、全然連絡が取れなくなった。バイトにも来なくなってたし。

 たぶん、これが12月の話なんだ。で、その翌月にオレはアムと知り合って、ビアガーデンに行ってはいたけど、ほかの女の子とは連絡も取らなくなった。

 それで、すっかりゲームちゃんのことを忘れていたが、数ヶ月後にいきなり電話が来た。仕事中にかかってきたのだが、オレはそのとき風邪を引いていて鼻声になっていた。

 聞けば、あのあと体調を崩してバイトを辞めてしまったのだとか。そういえば、体調がよくないということを言っていたが。それで、今どうしているのかなどを訊かれたけど、もうオレはどうでもいいわけ。早く切りたいし、職場だから大きな声で話せないし。なんの用なんだろうと思いながら沈黙も多く。

 で、風邪気味だから鼻を啜っているわけ、最初から。なのに、途中の沈黙の際に急にゲームちゃんが「泣かないで」とか言い出し。泣いてないって言っても、どうしたのって。だから風邪だって言っているだろ。職場なんだから泣くわけないじゃんか、って言ってもなんか信じてくれない。

 面倒臭いなと思って、さっさと電話を切ったら、今度は違う番号から。ひまわり畑に行った彼女の友だちからで、またそいつからも「泣かないで」って。なんか勝手にゲームちゃんに惚れ込んでて捨てられて泣いている日本人みたいな感じにされてんの、オレ。

 つき合わなくてよかった、と思い、「うるせえ、バーカ、電話してくんな!」って電話を切った。それっきり。

 だけどなあ。もしゲームちゃんと続いてたら、オレ、今どうなってたろうなあ。なんて思ったりして。